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名古屋地方裁判所 昭和41年(ワ)2527号 判決 1967年4月03日

原告 加藤春樹 外二名

被告 国

代理人 川本権祐 外三名

主文

被告は

原告加藤春樹に対し金七二万三〇四〇円、

原告加藤一郎、同御代子に対し金二万四四七〇円、

及びこれらに対する昭和四〇年八月一四日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告等その余の請求を棄却する。

訴訟費用中、原告春樹と被告間に生じた分は二分し、その一を原告春樹、その余を被告の各負担とし、原告一郎、同御代子と被告間に生じた分は一〇分し、その一を被告、その余を原告両名の各負担とする。

この判決は、原告等勝訴部分につき仮に執行することができる。

事  実<省略>

理由

一、訴外太田俊昭が厚生省名古屋検疫所の自動車運転手であること、原告春樹(昭和三二年二月八日生)が原告一郎、同御代子の長男であること、原告春樹が原告等主張のとおり右訴外太田の運転する名古屋検疫所保有の普通乗用自動車により傷害を受けたこと、及び、被告が本件事故により生じた原告春樹の損害を賠償すべき義務あること、以上はすべて当事者間に争いがない。

二、被告は、本件事故については既に和解が成立し、その債務を支払済である旨主張するので、まずこの点について判断する。被告が原告春樹に対し、治療費六五万四七三四円、その他二七万六九六〇円、合計九三万一六九四円を支払済であることについては、当事者間に争いがないところ、(証拠省略)の結果を総合すれば、(一)本件事故による被害者としては、原告春樹のほかに訴外久野恭一、同旭宏治があつたが、右訴外両名は比較的損害が軽微であつたため、直ぐに示談が成立し示談書が取交わされたこと、(二)原告春樹については、被告側は名古屋検疫所庶務課長鈴木正夫を介し、原告一郎に対し、昭和四〇年一〇月二八日頃治療費のほか慰藉料として二五万六九六〇円を支払う旨提案し示談交渉に入つたが、昭和四一年一月頃、原告一郎からは慰藉料二四六万円を要求していたこと、(三)これに対し被告(名古屋検疫所)は、関係機関の意見を徴したうえ、被告案をもつて妥当であると考え、また他方、他の被害者二名から早期解決方を催促され、中央からも一括解決せよと指示してきたので、昭和四一年二月七日、前記鈴木課長を介し被告案をもつて解決をはかろうとしたこと、(四)しかるに、原告一郎は、当時原告春樹の右大腿骨接合手術における抜釘手術が残つていたため示談書に捺印することができないとし、さらに、右手術後の八月一二日頃にも捺印を依頼されたが、瘢痕部が思わしくないので捺印をこばみ、ついで本訴を提起するに至つたこと、以上の事実を認めることができる。右認定の示談交渉の経過、ことに示談書に捺印されなかつた事情に照すと、いまだ、本件当時者間には和解が成立していなかつたというべきである。

三、そこで原告春樹の損害について検討する。

(一)  慰藉料

(証拠省略)の結果を総合すると、(一)原告春樹は本件事故により右大腿骨々折、頭部挫傷及び剥離、左手左下腿部挫傷の傷害をうけ、昭和四〇年八月一四日より同年一一月一七日まで中京病院に入院し、大腿骨接合手術、右頭部の回転植皮手術、前額部に大腿部の皮膚移植手術をなし、更に、昭和四一年七月二二日頃より約二週間、大腿骨接合髄内釘抜去手術と、二度目の回転植皮手術のために再入院したこと、(二)右手術の経過は良好で、頭部足部ともに機能的障害は全くなく、頭部有毛部に長さ約一三糎以上の瘢痕四条と、約五糎の瘢痕一条を残し、この五本の瘢痕は長髪にすれば目立たなくなること、(三)左前記額部の毛髪の生え際には、長髪にしてもかくし切れぬ程度(3糎×4糎)の瘢痕が残り、その整形のため将来成長後に植皮手術をするがよいとされているが、現在の医学では到底完治を期待できないこと、(四)その他、大腿部とか臀部にある手術痕は成長につれて大きくなつていくこと、右顔面にある約4糎の瘢痕はさほど目立たず、将来消えるのであろうこと、以上の事実が認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。右認定事実に併せ、原告春樹が自己の過失なくして本件事故にあつたこと、その年令、学令期における影響、その他諸般の事情を考慮するとき、原告春樹の肉体的精神的苦痛に対する慰藉料は、一〇〇万円をもつて相当と認める。

ところで、被告が原告等に対し、治療費のほかに二七万六九六〇円を支払つたことは前示のとおりであり、右金員が慰藉料として支払われたことは当事者間に争いがないから、この分は前記慰藉料額より控除すべきものである。そうすると、残額は七二万三〇四〇円となる。

(二)  次に、原告春樹は、前記頭部・顔面・足部等の瘢痕により一四%の労働能力を喪失したとして、逸失利益の賠償を求めているが、右主張は理由がない。蓋し、将来、外貌にこの程度の瘢痕があれば収入に影響を与える如き職業にのみ就くことが予定されている等、特段の事情が存しない限り、一般に本件程度の瘢痕の存在は、労働能力を喪失せしめるものではなく、右のような損害は専ら慰藉料算定の面において考慮すべきものであると解されるからである。

四、原告一郎、同御代子の損害について判断する。

(一)  諸雑費の支出

(証拠省略)を総合すると、右原告両名は、その主張のとおり原告春樹入院、通院に伴う交通費一万三九九〇円、入院の為に購入した雑品八五二〇円、事故の際の着衣破損代一九六〇円、の合計二万四四七〇円の損害をうけたことが認められる。

(二)  右原告両名は、原告春樹の傷害につき両親としての慰藉料をも訴求するが、本件程度の負傷においては、いまだ被害者本人以外の近親者の慰藉料請求権を肯認するに足りないから、原告等の右申立は理由がない。

五、結論

以上にのべたような訳で、原告等の本訴請求は、被告に対し、原告春樹が金七二万三〇四〇円、原告一郎、同御代子が二万四四七〇円、及び、これらに対する事故発生日である昭和四〇年八月一四日以降支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これらを認容することとし、その余の各請求部分は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口正夫 戸塚正二 上田誠治)

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